
思いがけずロシアで出くわしたのは、6年前から真舟を恨み執拗に追っていたヤクザ酒田だった。間一髪逃れた真舟だが、『M資金』を盗み出す大博打の最終局面で再び窮地に陥る。観念した真舟の前に姿を現したのはー。「世界が変わる瞬間をあなたに見せたい」。真舟に告げた“M”の正体は、計画の真の目的は?

在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦“いそかぜ”は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った“楯”が、日本にもたらす恐怖とは。日本推理作家協会賞を含む三賞を受賞した長編海洋冒険小説の傑作。
「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非ず」ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るためにー。すべての日本人に覚醒を促す魂の航路、圧倒的クライマックスへ。
昭和二十年、日本が滅亡に瀕していた夏。崩壊したナチスドイツからもたらされた戦利潜水艦・伊507が、男たちの、国家の運命をねじ曲げてゆく。五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライとはなにか。終戦という歴史の分岐点を駆け抜けた魂の記録が、この国の現在を問い直す。第22回吉川英治文学新人賞受賞。
この国に「あるべき終戦の形」をもたらすと言われる特殊兵器・ローレライを求めて出航した伊507。回収任務に抜擢された少年兵・折笠征人は、太平洋の魔女と恐れられたローレライの実像を知る。米軍潜水艦との息詰る死闘のさなか、深海に響き渡る魔女の歌声がもたらすのは生か死か。命の凱歌、緊迫の第2巻。
その日、広島は核の業火に包まれた。人類史上類を見ない大量殺戮の閃光が、日本に定められた敗北の道を歩ませ、「国家としての切腹」を目論む浅倉大佐の計画を加速させる。彼が望む「あるべき終戦の形」とは?その凄惨な真実が語られる時、伊507乗員たちは言葉を失い、そして決断を迫られた。刮目の第3巻。
「ローレライは、あなたが望む終戦のためには歌わない」あらゆる絶望と悲憤を乗り越え、伊507は最後の戦闘へ赴く。第三の原子爆弾投下を阻止せよ。孤立無援の状況下、乗員たちはその一戦にすべてを賭けた。そこに守るべき未来があると信じて。今、くり返す混迷の時代に捧げる「終戦」の祈り。畢生の大作、完結。
愛する男を待ち続ける女、隠居した天才的スリ、タクシー運転手として働きながら機が満ちるのを待った工作員。心に傷を持ちながら、独り誇りを抱き続けた者たちの消せない染み。あきらめることを知らない6つの魂が、薄明の世界に鮮烈な軌跡を刻む。著者が織り成す切なく熱い人間讃歌、人生を戦うすべての者へ。
突如として起こった大地震。新宿で震災に直面した平凡なサラリーマン・西谷久太郎は、家族に会いたいが一心で大混乱に陥った首都を横断する。生きていれば必ず道は見つかる。次から次へと襲いかかる災厄を乗り越え、ついに自宅にたどり着いた西谷が手にしたものはー。実用情報も満載したシミュレーション小説。
「彼女を守る。それがおれの任務だ」傷だらけで、追手から逃げ延びてきた少年。彼の中に忘れていた熱いたぎりを見た元警官は、少年を匿い、底なしの川に引き込まれてゆく。やがて浮かび上がる敵の正体。風化しかけた地下鉄テロ事件の真相が教える、この国の暗部とは。出版界の話題を独占した必涙の処女作。
沖縄から米海兵隊が撤退した。それは米国防総省が、たった一人のテロリストに屈服した瞬間だった。テロリストの名は「12」。最強のコンピュータウィルス「アポトーシス2」と謎の兵器「ウルマ」を使い、米国防総省を脅迫しつづける「12」の正体は?真の目的は?圧倒的スケールの江戸川乱歩賞受賞作。

始まりは2005年。映画『亡国のイージス』で、原作者と監督として二つの才能が出会ったことに端を発する。阪本順治監督は、長年温めていたテーマ「M資金」を題材に再びタッグを組むことを福井晴敏に提案した。
かつてデビュー前の習作で「M資金」を描いていた福井はこれに共鳴し、独自のアプローチでリサーチを始めた。それは日本の戦後史を奥深く掘り下げる作業となり、史実をもとにした壮大な仮説が組み上がっていった。そして「M資金」は歴史上の仮説にとどまらず、現代日本の、ひいては世界の根幹に深く関わる問題であることが浮き彫りになっていった。
「M資金」は実在した……
終戦時、一人の陸軍大尉が、ある志に基づいて日銀の地下倉庫から盗み出し隠匿した、軍の隠し資産である莫大な金塊。のちにそれはある財団に管理運営されることになり、戦後日本復興の陰で不可欠の存在となった。
しかし時は流れ、金融資本主義が席巻する世界に歩調を合わせるかのように、「M資金」もまたその有りようを変化させていった。そして……。
歴史の闇をまとう「M資金」を通じて先の見えない現代社会を照射し、誰も幸せにしないまま暴走する資本主義の本質を突く、未曾有のエンターテインメントが誕生した。
『亡国のイージス』では国防問題を、『終戦のローレライ』では戦争を小説のテーマとして選んだ福井は、本作では「今すべての人にとって最も切実なこと」として「経済」に正面から取り組む。もともと経済に明るいわけではない。しかしそれ故に、経済の専門家には
見えないかもしれない真実を小説家として探り当て、臆することなく描き出したのだ。
すべての人類のために。小説と映画はその思いをひとつにして、今それぞれの幕を開ける。

