










――完成した映画をご覧になった感想はいかがですか?
黒木:本当によくできている脚本だなあ、と思いましたし、改めて三島監督のすごさを思い知りました。会話の内容も本にまつわるこ とが多いので、実をいうともう少し落ち着いた映画になるかなと思っていたんですけど、完成した作品を観たら想像以上にエンターテインメントでした。とくに、二冊の本を媒介に現在とつながっていく過去のパートがとても美しかった。静謐なのに心のうねりが激しく表現されていて、すごく好きですね。
野村:僕は、自分がこの作品の一部になってるってことに感動してしまいました。この映画から自分の声が出るってことだけでなんと いうか、とても光栄です。こんな僕を素敵に撮ってくださってありがとうございます、って監督への感謝でいっぱいです。
黒木:野村さんは、自分のかわいい見せ方を熟知してますよね。
野村:かわいい?
黒木:はい。私のほうが年上だけど、野村さんのほうが俳優歴では先輩なので、さすがだなと思いました。上目遣いで見上げるシー ンのアングルとか、すごいなあ、わかってるなあって。
野村:いやいや、必死だったんですよ。監督に喜んでもらうために(笑)。ほんと、監督がこだわりのある方なので。栞子さんの映し出され方もめちゃくちゃきれいでしたよね。僕、ビブリア古書堂の店内シーンはどれも好きなんですよ。二人が対峙して顔を近づけるところとか、大きな動きはないけど雰囲気があって。僕はちゃんとかわいいし(笑)。
黒木:野村さんの演じた大輔は素直でかわいい人ですよね。猪突猛進なところとか。
野村:すごく素直な人ですよね。全部にまっすぐすぎるから空回りしてしまうこともあるんだけど、いつも他人のことを思いやってる。今回は、特別に役作りをしたというよりは、脚本を読んで素直に感じたままを演じたところが大きいのですが、大輔のそういう優しさは僕にはないかもしれないと思ってました。黒木さんの演じた栞子さんは、ただただ美しかったですよね。
黒木:……(照れて黙る)。
野村:お淑やかで、その場にいるだけで空気が栞子さんの色に染まっていく。店に入って初めて本を読んでいる栞子さんに出会うシーンは、大げさかもしれないけど天使だなって思いました。なかなかあの雰囲気は出せないですよ。
黒木:そんなことないですよ(笑)。原作の表紙のイラストが印象的じゃないですか。私は近眼だからつい本に顔を寄せてしまいそ うになるんだけど、なるべく美しい佇まいになるよう、本を読む角度を調整しながら、栞子が本に接するときの距離感は常に意識していました。あとは、極度の人見知りなのに本の話になると途端に、早口になってしまうギャップとか。いい意味でオタク、というのが彼女の魅力の一つですし。
野村:僕は最初、大輔のイラストを見たときは身長は180センチ以上あるし、ガタイはいいし。僕と全然ちがうじゃん!って思いました(笑)。

――本に関する謎解きはもちろんですが、少しずつお二人の距離が近づいていくのもこの作品の見所ですね。
黒木:栞子は鈍感な人だから、大輔に対する気持ちも、自覚するのにずいぶん時間がかかっただろうなあ。
野村:大輔は初対面のときから栞子さんに目を奪われていたけど、きっかけは子供たちに読み聞かせをしているのを見たことだろうな。こんなに心も清らかな人なんだ、って気づいてそこからどんどん気になっていった。なのに途中から成田凌くん演じる稲垣が現れて、栞子さんと二人でわかりあっちゃって。大輔は嫉妬ですよ。
黒木:(笑)。でも私、三人で煙突屋根のあるお屋敷に行くシーン、好きですよ。事件が解決して、栞子と稲垣は納得しているのに、大輔が一人だけ釈然としていないところ。大輔らしくてかわいかった。
野村:三人のシーンといえば、ラーメン屋のシーンがカオスだったな……。
黒木:みんな、笑いすぎちゃってね。セリフが言えなくなって。
――そんな、笑う場面じゃありませんでしたよね?
野村:そうなんですけど、役者には時々あるんですよ。変なツボにハマってしまうときが。顔を見ただけでかたまって、笑いが止まらなくなって。10何回は撮りなおした気がする…。
黒木:あれ、最初は成田くんだったと思うよ。
野村:そうだ。あれは成田くんのせい(笑)。
黒木:全然言えてないのに、言えてますよ感を出すところもおかしくて(笑)。みんな、疲れて集中力が切れてたんですよ。あそこで一気に役者同士は打ち解けたけど、最終的には監督に怒られました。
――ラーメン屋のシーンは二度ありましたが、大輔の座る位置がちがうので、そこで二人の心の距離感を表しているのかなと思っていたんですが……。
野村:そのとおりです。
黒木:(笑)。
野村:僕らというか、監督が意識して演出してくださったんだと思います。本当に細部にまでこだわる方なので。照明ひとつとっても、微細な調整をしていました。監督がよくおっしゃってたのが、ピントも芝居のうちだ、って。
黒木:ちょっとずれるだけで、同じお芝居でも印象がまるで変わってしまうんですよね。室内のシーンが多いとどうしても動きが少 なくなって、画が退屈になってしまう危険があると思うんですが、そうならないよう常に演出を考えていらっしゃったんだと思います。狭い空間のなかで観客にどう魅せるか、という点では舞台での動きにちょっと似ていたかもしれない。

――ほかに、撮影中で印象に残っているシーンはありますか?
野村:ラストシーンはけっこう好きですね。
黒木:キュンとするやつ。
野村:恥ずかしかったけどね。大輔はちょいちょい気障なことするよなって。
黒木:大輔の一生懸命さは常に胸キュンでした。こんなにまっすぐ想っていてくれるんだ、って。
――あそこまであからさまに想われているのに、どうして栞子は自分の気持ちにも大輔の気持ちにも気づかないんでしょうね。
黒木:なんでだろう。それが栞子たる所以でもあるんだけど。
野村:いいところですよね。
黒木:あんなにたくさん本を読んでいて、人の感情の機微を誰より知っているはずなのに、対自分になると途端に鈍くなる。見えているものと見えていないものの落差が激しいんですよね。不器用で、そしてどこかいびつな人だなあと思います。そこが魅力でもあり、怖さでもあり、不思議な女性だなと。
野村:妹にも、お姉ちゃんは何もわかってない!なんて怒られてしまうし。
黒木:半径の狭い世界に弱いんですよね。映画のキーワードにもなる太宰治の「晩年」……「生キトシ生クルモノ スベテ コレ罪ノ子 ナレバ」という文章を読んで、自分のことを言われているようで好きだ、って栞子は言うじゃないですか。それは、自分を肯定的にとらえられない部分があるからだと思うんです。だからもしかしたら、自分自身のことについては、見えていないというより、無意識のうちに見ないようにしているのかもしれないですね。そんな栞子だからこそ、大輔くんという存在がそばにいてくれてよかったなと思います。
――大輔のことを明確に意識し始めたのはいつだと思いますか?
黒木:いつだろう……。途中で呼び方が「五浦さん」から「大輔さん」に変わるんですよね。あのあたりかな。でも、大輔に嘘を責められて目の前から去っていったとき……本にしか興味をもてなかった彼女が初めて、他者の喪失というものを味わい、変わっていったのかなとも思います。物語上、大切なシーンであるのはもちろんなんですが、私自身も演じていて胸が苦しくなりました。
――映画の見どころは?
黒木:行間を漂うしっとりとした雰囲気がこの作品の醍醐味だと思うので、原作ファンにも、太宰ファンにも、映画で初めて作品を知る方にも、楽しんでいただけると嬉しいですね。

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