私の好きなとんぼの本 伊藤まさこ(スタイリスト)
いとう・まさこ
1970年神奈川県生れ。
文化服装学院でデザインと服作りを学ぶ。料理や雑貨、テーブルまわりのスタイリストとして、数々の女性誌や料理本で活躍。
著書に、『あの人の食器棚』『家事のニホヘト』『台所のニホヘト』『伊藤まさこの食材えらび』など。
自分に正直に生きるとは
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向田邦子暮しの愉しみ
向田邦子
「どうも私は、いざとなると花より団子になってしまう」
若葉に会いに旅に出たのに、新幹線を降りたとき、向田さんの眼にまっ先にとび込んできたのは味噌カツの看板だった。
食いしん坊の料理好き。靴や服を買ったつもりで気に入りの器をひとつ手に入れ、酒のつまみをささっと盛る。旅も仕事も、料理も、おしゃれも、すべてがすべて、向田邦子というひとりの女性の暮しの愉しみに繋がっている。
自分に正直に生きるとは?その答えがこの本にはたくさん詰まっているような気がしてならない。
(雑誌「波」2013年10月号より)
私の好きなとんぼの本 川瀬敏郎(花人)
かわせ・としろう
1948年京都府生れ。
幼少より池坊の花道を学ぶ。日本大学芸術学部卒業後、パリ大学へ留学。
1974年に帰国後は流派に属さず、独自の創作活動を続ける。
著書に『花会記 四季の心とかたち』『川瀬敏郎 今様花伝書』『川瀬敏郎 一日一花』など。
本気であること
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草づくし
白洲正子
草花そのものについてだけでなく、美術や民族へも筆がのびています。それだけに濃密ですが、文章はさりげなく、白洲先生も楽しみながら書かれたのでしょう。写真もいまふうではないかもしれないけれど、思いがけない構図があったりします。
選んだ5冊は何度も読み返しているものです。
どの本も、あらわしかたこそことなるものの、背後に濃密さを感じます。表面的ではない、というか。
本気であること、ほんものであること。それが人をひきつけるのだと思います。すべてを理解しなくてもいい。ほんの1ミリでも伝われば、それをもとに、人は歩いてゆくのですから。
(雑誌「波」2013年10月号より)
私の好きなとんぼの本 中谷美紀(女優)
なかたに・みき
1976年東京都生れ。
2013年10月5日より主演舞台『ロスト イン ヨンカーズ』がパルコ劇場他で上演。
2013年11月には映画『清須会議』、12月には『利休にたずねよ』が公開。
2014年1月よりNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』に出演。
著書に『インド旅行記(1から4)』『女心と秋の空』など。
ため息と回し読み
■(雑誌「波」2013年10月号より)
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草づくし
白洲正子
老若男女を問わず、花の名前を知っている人を無条件に素敵だと思えます。
高山植物のくろゆりをめぐって北政所と淀君が火花を散らしたという伝説を、本書ではじめて知りました。
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沢村貞子の献立日記
高橋みどり
女優としてのみならず文筆家としてもいぶし銀の輝きを放っていらした沢村貞子さんが27年間にわたって綴った献立は、いたずらに過ぎてゆく日常がどれほど尊く愛おしいものか教えてくれます。
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ルイス・バラガンの家
ワタリウム美術館
シンプルな線と面で縁取られた建築が日本人の心をくすぐります。
「ああ、こんな家で暮らしたい」と思わずため息が漏れるのは、余白がこの家を覆っているからなのでしょう。
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茶碗と茶室
楽吉左衛門(15代目)
映画『利休にたずねよ』にて、利休の妻宗恩を演じていた折に、長次郎の「万代屋黒」でお茶を点てるという又とない機会に恵まれましたが、現在に生きる人間が茶の湯とどう係わっていくのか、本書の問いかけに身がすくみます。
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恋する春画
橋本治
男女がはばかりもなく、くんずほぐれつしている姿が笑いを誘い、徹夜仕事の折などには一服の清涼剤のように疲れを癒してくれるので、思春期の学生よろしく回し読みをしたりしています。
私の好きなとんぼの本 中村好文(建築家)
なかむら・よしふみ
1948年千葉県生れ。
武蔵野美術大学建築学科卒業。
81年、設計事務所レミングハウスを設立。
87年「三谷さんの家」で吉岡賞、93年「一連の住宅作品」で吉田五十八賞特別賞を受賞。
著書に『住宅巡礼』『住宅読本』『意中の建築(上・下)』『中村好文 小屋から家へ』など。
とっておきの「人」
生まれつき好奇心が強く、興味の幅も広いほうですが、「とんぼの本」はそうしたこちらの正体を見透かしたようなラインナップで、書棚の前に立つぼくの眼を迷わせ、心を惑わせてくれます。
とりわけ僕の好きなのは、美術を、生活を、旅を、歴史を、とっておきの「人物」と重ねあわせて紹介してくれる一連のシリーズ。
選んだ5冊も、期せずしてそうした本になりました。
(雑誌「波」2013年10月号より)
私の好きなとんぼの本 原田マハ(作家)
はらだ・まは
1962年東京都生れ。
関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。
森ビル森美術館設立準備室に在籍中、ニューヨーク近代美術館に派遣され勤務。
2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞受賞。
著書に、『楽天のカンヴァス』『ジヴェルニーの食卓』『総理の夫』など。
大いなる散財
宇野千代、白洲正子、小林秀雄、三島由紀夫、そして高峰秀子。この人物たちは、美の旅人であり、美的暮らしの達人であった。
つまりは、その人生において、美に対するあくなき探求を続け、美に対する妥協をしない、美の巨匠であった(以上、『美』という文字を一気に五回使った)。
私は、彼らの生き様に憧れ、彼らのようになりたいと思うあまり、一年の半分以上を旅に費やし、生きていくのには必要はないけれどもあれば生活が豊かになる、というような文物 ----香水、ストール、鉄瓶から書画骨董まで---- を旅先でせっせと買い漁っている。
身銭を切って気障を気取り、自らの流儀に妥協を許さぬ巨匠たちに、少しでも近づきたいと日々願っている。
それが、私がとんぼの本を熟読する理由である。そして散財する最たる理由でもある。
(雑誌「波」2013年10月号より)
私の好きなとんぼの本 楽天ブックススタッフ
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白洲正子“ほんもの”の生活
白洲正子
《楽天ブックススタッフのオススメコメント》
骨董と人間の付き合いって、男女の仲みたいなものですよ―実に深い一言です。“ほんもの”を知る唯一の人と言われた白洲正子さん、彼女がいかにして姿かたちにとらわれずに“もの”へとまなざしを向けていたかがうかがえる一冊です。また、彼女のまなざしを向けられた“もの”の数々からも在りし日の白洲さんの姿を物語っています。
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イタリア古寺巡礼(シチリア→ナポリ)
金沢百枝
《楽天ブックススタッフのオススメコメント》
「中世」をテーマにイタリアの南部からシチリアを駆け巡る本書。中世芸術といえばキリスト教色も濃く、やや重く荘厳なイメージもありますが、イタリア南部という地域特性も手伝って、明るく軽やかな側面も伝わってくる1冊です。ミラノからヴェネツィア、フィレンツェからアッシジとイタリア北部と中部をめぐる古寺巡礼シリーズと併せてのご一読をお勧めします。
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向田邦子暮しの愉しみ
向田邦子
《楽天ブックススタッフのオススメコメント》
昔から、向田邦子さんのエッセイを読んで気になっていたことがいくつかあります。
中でも一番気になるのが「う」の抽斗。
この本では、その「う」の抽斗をはじめとして、向田さんがこだわっていた料理や小物に本やお店などが紹介されています。
中でも圧巻なのが、「向田邦子が選んだ食いしん坊に贈る100冊」のコーナー。料理のレシピ本だけではなく、エッセイや小説など多彩なラインアップが並んでいます。
これを機に、他の本も手にとってみませんか。
「とんぼの本」とは
とんぼの本は、美術、生活、歴史、旅などをテーマとするヴィジュアルの入門書、案内書のシリーズです。
創刊は1983年。まず10月に『やきもの鑑定入門』『竹久夢二写真館「女」』『K2に挑む』、つづいて11月に『やさしい仏像の見方』『松本清張カメラ紀行』を刊行しました。
そのうち「やきもの」と「仏像」はいまも版をかさねています(累計部数の上位2冊でもあります。ほかの3冊はざんねんながら絶版ですが、こうして見るとなかなかとんがっていましたね)。
創刊以来30年間で347冊の本を作り、176冊の版が生きています(2013年10月現在)。
シリーズ名の由来を訊かれると「とんぼのように視野を広くもちたい、という思いから」(と聞いています)とこたえています。とんぼは前にしか進まないことから「決して退かない虫」すなわち「勝虫」とよばれて、戦国武将の「変り兜」の意匠にも使われました。
縁起のよい名でよかったと思いますが、本を作ることは勝ち負けではないので、いまは秋の空を飛びまわるとんぼのあの身軽さ、自由さを心がけようと思っています。
じつは30周年を機に、とんぼの本のシンボルマークを新しくしました。
作者は画家のnakabanさん。〈何年経っても見飽きないとんぼがいいな〉。
nakabanさんはマークを考えるにあたって、西洋中世のロマネスク美術をヒントにしたそうです。
〈素朴で力強く、タイムレスなかたち。神秘的で人なつこい〉 ─とんぼの本も、そんな本でありたいと願っています。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
(雑誌「波」2013年10月号より)