2013/04/23掲載
| もっと自分の言葉で即興を |
1987年にリック・スミスとアンダーワールドを結成して以来、常にアーティスティックな姿勢を崩さないまま、世界中のダンス・フロアを揺らし続けてきたカール・ハイドが、キャリア初となるソロ・アルバム『エッジランド』を完成させた。昨年は盟友ダニー・ボイルと共にロンドン・オリンピック開会式の演出を手がけたことも話題となったが、50代も半ばを迎えた現在、彼のチャレンジ精神は衰えるどころか、ますます膨らみ続けているようだ。
「ソロ・アルバムを作るっていう発想は20年前からあったんだけど、ただ実現するまで本当に長くかかってしまった(笑)。今回実現に至ったきっかけはいくつかあるんだけど、2010年にブライアン・イーノの“Pure Scenius”というライヴ・プロジェクトに参加したときに、ブライアンに“もっと自分の言葉で即興をやればいい”と勧められたんだ。そのプロジェクト自体が即興を重んじるもので、その経験があまりに充実していたから、同じような手法で自分の音楽を作りたいと強く思うようになったんだ」

アルバム制作のパートナーに選ばれたのは、やはりブライアン・イーノとの交流が深く、近年は再結成したパルプのツアーでサポートを務めるなどしたギタリストのレオ・アブラハムス。何もないところから2人でスタジオに入って、即興を重ねることで作られていったという本作は、アンダーワールドの音楽にも内包されているアンビエント〜チルアウト的な側面がクローズアップされたもので、生楽器とエレクトロニクスが折り重なり、抑制の利いた静謐なムードが美しい作品に仕上がっている。また、本作は“ヴォーカル・アルバム”としての色合いも強く、アンダーワールドとは異なるカールのソウルフルな歌唱も大きな聴きどころだ。しかも、ヴォーカルはすべてファースト・テイクを採用、歌い直しは一切なしだったというのだから驚きである。
「“Pure Scenius”でのブライアンやレオとのアンサンブルは、よりヴォーカルの入る余地があるサウンドスケープだったんだ。アンダーワールドというのは、ダンス・ミュージックの特性上、ヴォーカルを入れすぎるのは適さない。ただ、その一方で歌いたいという衝動も自分の中にはある。だったら、ソロ・プロジェクトで歌を探求しようと思った。正直であることを何よりも心がけて、自分が発する言葉に偽りがなく、誰かの物語や僕の旅をありのまま伝えること、それと同時にレオが奏でる音楽を先入観なく素直に感じることを心がけたね。2人でスタジオに入って、彼が生み出すサウンドを聴いて、そのサウンドに合うと感じる言葉を見つけるんだ。コード進行も曲の構成も、前もって決めることなく、お互い導かれるままに、一緒に旅をしたんだ」
| 都会の際の風景と自分を取り戻す旅 |
アンダーワールドの作品にも通じる“旅”の感覚、ロードムービー的な雰囲気というのは、このアルバムにも大きく反映されているが、本作でカールがテーマに掲げたのは“都市の風景”である。“都市”と言っても、彼が描いたのは“都会”ではなく、都会と田舎の際(=エッジ)。『エッジランド』という作品は、そこで生活している人々の様子を、具体的な描写も交えて生々しく表現した作品なのだ。
「このアルバムでは賑やかな都市の中心地というよりも、都会と田舎が交錯する都市の外れに焦点を当てている。具体的には、ロンドンの端からエセックス州に切り替わるあたりの場所さ。都会というのは題材として取り上げられることが多い。同様に、田舎も美しい田園風景や古い街並みが取り上げられる。でも、都会の外れに存在するコミュニティというものがあるんだ。そこに住む人たちというのは、都会暮らしに憧れるわけでもなく、田舎暮らしを夢見るわけでもない。地元に対する意識が高く、我が道を行く彼らの生き方に僕は強く惹かれる。つまり、僕たちが住むエセックス州の人たちの明るくて前向きな生きる姿勢を、今回はより探求したいと思ってね」

丸一日寝ていないドライバーが運転する車の後部座席から街の様子を見つめる「The Night Slips Us Smiling Underneath It's Dress」や、電車の中での男女のささやかな幸せを描いた「Your Perfume Was The Best Thing」など、本作ではさまざまなシーンがシネマティックに描かれていく。しかし、アルバムのクライマックスと言うべき8分を超す大曲「Shadow Boy」は、カール自身の喪失と再生を描いた感動的な楽曲なのである。
「今作の歌詞を書くにあたって、自信を完全に喪失してしまった時期があったんだ。そんなときに、ほかの作家の作品を読み、心のまま歌詞を綴っていると思うミュージシャンの作品を聴くことで刺激をもらうことができた。特に、モリッシーやロバート・ワイアットの音楽にある、ありのままをさらけ出した儚さから多くの刺激をもらって、“僕もありのままの自分をさらけ出してみよう”と思えたんだ。そこから生まれた最初の歌詞というのが〈Shadow Boy〉の“I've lost my confidence to write these words to you(この言葉を君に綴る自信を無くしてしまったよ)”で、それがこの曲の旅の始まりだった。見失った自分を取り戻す旅のね」
即興を重んじた制作と、さまざまなアーティストの作品に背中を押されて、自らのありのままをさらけ出すことに成功したカール・ハイド。今後もアンダーワールドと並行する形で、レオ・アブラハムスやブライアン・イーノとのコラボレーションを続けていきたいという。魂の旅の終着駅は、まだまだ先なのだ。
「リックとお互いに距離を置いて、ほかのプロジェクトに携わったのは本当によかったと思う。すべてを2人の合意のもとでやるのは、バンドにとって決していいことだと思わないし、活動を続けていく中で、2人ですべてをやらなきゃいけないということが逆に足枷になってしまっていた部分もあっただろうからね。でも、そうじゃなくなった今、2人の関係はまたさらによくなったと思うんだ。一緒にやらなきゃいけないわけではないことがはっきりしたからこそ、“一緒にやりたいから一緒にやるんだ”っていう思いがいっそう強くなったよ」
写真 (c)Perou 取材・文 金子厚武 (CDJounal 2013年5月号より転載)












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