2013/05/15掲載
『小澤征爾さんと、音楽について話をする』で聴いたクラシック

のちに『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮社)を読んで、春樹さんが名盤と呼ばれるような古いアルバムを、今もLPレコードで大切に聴いているのだとわかって、納得。あれはきっと旅行用とか、誰かにあげたりするためのものだったのかもしれない。
ともあれ、同書はとてもユニークで素敵な構成の対話インタビュー集である。おもに春樹さんの自宅や仕事場で、小澤さんと膝を突き合わせて、話のテーマとなる音楽を聴きながら行なわれているのだが、レコードをターンテーブルに載せて針を落としたり、裏返したりする様子から、二人がお茶を飲んだりおやつを食べるシーンまで、かなりこと細かに描写されている。

それだけに、同書の中で実際に二人がどんな演奏を耳にしたり、どの楽曲について語り合ったりしているのか興味を持たれた読者もきっと多いはず。熱心なクラシック・ファンの中には、自分のLPやCD棚を探して、それらを聴きながら読んだという方も少なからずいただろう。今回リリースされたアルバム『小澤征爾さんと、音楽について話をする』は、そんな読者の要望に応えるカタチでリリースが実現した3枚組CDであると言えるだろう。

[Disc 1]には小澤さんがアシスタントでその場に居合わせたという、1962年カーネギー・ホールでのグレン・グールドとニューヨーク・フィルによる「ブラームス:ピアノ協奏曲第1番」の第1楽章と、演奏前にレナード・バーンスタインが聴衆を前に行なった異例のスピーチが収録されている。ほかには春樹さんが「間の取り方というか、音の自在な配置の仕方が、どことなくグールドを彷彿」させると語る内田光子と、クルト・ザンデルリンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管による1994年の「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番」第2楽章など。
[Disc 2]には二人ともがラデク・バボラークのホルン・ソロを大絶賛している2010年カーネギー・ホールでのサイトウ・キネン・オーケストラによる「ブラームス:交響曲 第1番」第4楽章などを収録。1973年のボストン交響楽団と、2007年のサイトウ・キネン・オーケストラによる、同じ「ベルリーズ:幻想交響曲」の第4楽章〈断頭台への後進〉を聴き比べて、同書で語られている年齢と経験からくる演奏の変化や、常任で音楽監督を務める楽団と不定期の楽団とでは、指揮者とオーケストラとの関係が違ってくるという興味深い話などを検証することもできる。
[Disc 3]は小澤さんにとって重要なレパートリーであるマーラーをめぐって繰り広げられた、ヘルベルト・フォン・カラヤンとバーンスタインの取り組みなども含めた演奏史、作曲家・作品論など、二人のディープな対話を裏付けるための演奏を中心に選りすぐって収録。カルロス・クライバーについての面白いエピソードもふんだんに盛り込まれた第5回の対話「オペラは楽しい」からは、小澤さんが初めて舞台で指揮したという『モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」』の序曲(カール・ベーム指揮ウィーン・フィル)や、イタリアのソプラノ、ミレッラ・フレー二が極めつけのミミを歌う『プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」』から「私の名はミミ」なども聴きどころだ。

文 東端哲也 (CDJournal.comより転載)












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