2014/02/25掲載
ゆったりとしたテンポが妙に心地よい「アランフェス協奏曲」を聴きながら、多くのギタリストが演奏してきたこの名曲を、また新鮮な気分で聴けることにやや驚く。6年ほど前にアランフェス宮殿へと足を運び、さまざまな様式や色彩が共存している様子を印象深く見たという村治奏一。『コラージュ・デ・アランフェス』と題された新しいCDの制作は、そうした体験もきっかけになっているようだ。

photo: ©村治奏一
- 「アランフェス宮殿の建設が始まった16世紀には、さまざまな文化がスペインへと流入し、貴族と民衆との壁も低かった時代。作曲者のロドリーゴ自身も、そこに生まれる交流が大切なテーマだと言及していますけれど、曲の中にはいろいろなフレーズがタイル状に並んでいて、その多彩さこそが魅力ではないかと思えるんです。演奏の技術を競うのではなく、宮殿の中にある多彩な部屋を歩きながら、その色彩を描くような気持ちで弾きました」
じっくりと弾いている演奏には、こちらもじっくりと耳を傾けたくなるものだが、その気分は次に収録されている林光のギター協奏曲「北の帆船」でも変わることはない。
「こんなに素敵なギター協奏曲があるのか、という新鮮な驚きがありました。この曲も琉球やアイヌなどの音楽をモティーフに使って“民族のコラージュ”を表現している作品。僕自身は〈アランフェス〉に匹敵する名作だと思いますが、それを多くの方に伝えたいですね。その次に入っている武満徹の〈夢の縁へ〉もギター協奏曲という形をとりながら、じつはオーケストラの中にギターが組み込まれており、その中でしっかりと個性をアピールしていく音楽。決してミックスするのではなく、個性ははっきりと残しておくのがコラージュの大切なところです」
話を聴いていると、数年間をアメリカのボストンやニューヨークで過ごす中、ギタリストとして、また音楽家としての自分を磨いていた彼の生活が重なる。コンサートやCDの企画を含む音楽活動ばかりではなく、サロンを作るプロジェクトに参加して壁の材質や椅子を選ぶなど、広い視野と見識が得られる体験もしたらしい。そうしたことが間接的に影響しているのだろうか。3月に発売が予定されているCD『SPARKS(スパークス)』の制作過程にさまざまな人とのディスカッションを組み入れるため、クラウドファンディング(資金出資の新しいスタイル)というシステムを導入した。

photo: ©村治奏一 「これまではCDを作ってもらっていた、もしくは参加していたという意識でしたが、ほかの人と対等の立場で、一緒に作り上げる感覚を得たかったんです。クラシックギターは職業や立場を超えた人が集まる文化サロンのような場で演奏されていましたが、それを自分でも実現したいと思いますし、単なる資金調達にとどまらない“新しいもの作りの場”が生み出せるといいですね」
自身での作曲や編曲、作曲家とのディスカッションから生まれる新曲など、これからの楽しみも多方向だという。私たちは届けられたCDをじっくりと楽しみ、村治奏一の今をしっかりと見つめながら、さらなる期待感を醸成していこう。
取材・文 オヤマダアツシ(CDJounal 2014年3月号より転載)