2014/03/28掲載
かつてのポップ・スターが紆余曲折の末
18年ぶりのアルバムとともに完全復活!
- かつてのポップ・スターが紆余曲折の末
18年ぶりのアルバムとともに完全復活! ボーイ・ジョージの18年ぶりの新作『ディス・イズ・ホワット・アイ・ドゥ』が素晴らしい。マリアンヌ・フェイスフルの名盤『ブロークン・イングリッシュ』を思い出す、味わい深いアルバムだ。いろんなことがあったボーイ・ジョージだからこそ作れたアルバムだと思う。いや、誰が彼にこんなアルバムを作れると思っただろうか? カルチャー・クラブのファンならボーイ・ジョージのたぐいまれなソングライターとしての実力は知っていると思うが、いろんな人に聴いてもらいたいアルバムである。特にルー・リードやレナード・コーエンなど大人のロックが好きな人に聴いてもらいたいアルバムだ
僕のイメージは80年代だけど
根っこは70年代なんだよ
――なぜこのような素晴らしいアルバムが作れたと思いますか?
「う〜ん音楽の在り方が30年前とはすっかり変わっている、ということが僕を後押ししたのかもしれない。誰もレコードを買わない時代ではあるけれども、だからこそ当時とはまったく違うアプローチで音楽に対することができるとも言えるだろう? レコード会社がなくたって、大きなスタジオを使わなくたって、自分が作ろうと思えば音楽を作って世に送りだすことは可能だ。実際、今回のレコードも自分のレーベルから発表したし。だから何のプレッシャーもなし。共演するミュージシャンの選択も、どんなサウンドを目指すかも、すべて自分で決められる。まあ、昔から僕にああしろこうしろと指図してくる人はいなかったけど(笑)」
――カルチャー・クラブの時も、そうしてあなたはポップ・アイコンになったのですもんね。今作には、あなたがボーイ・ジョージとなる前の時代の音楽、デヴィッド・ボウイ、マーク・ボラン、レゲエといった70年代の音楽がいっぱい詰め込まれてますね。
「僕がティーンエイジャーで、自分のお気に入りのミュージシャンと呼べる人たちを初めて見つけた頃の音楽だ。デヴィッド・ボウイ、マーク・ボラン、パンク・ロック、レゲエ・ミュージック。子供の頃、70年代に初めて出会った音楽だ。それが僕に残した印象は強烈だった。70年代というのは、僕からするとすごく興味深い、そしていろいろなものが折衷されていた10年間だったと思う。昔のを聴きたいなと思うと、70年代のを聴くことが多いよ」
――今作にはパンクのスピリッツも重要な要素のような気がしますが。
「もちろん! パンクの頃、僕はティーンエイジャーだったから、音楽だけでなくその背景にあるスタイルまでどんどん吸収して自分のものにしていた。新しい音楽とともに新しい世界が生まれる、という状況が、この国には特にあったんだ。今は音楽ですべてが変わってしまうなんていうことは、なくなってしまったように思う。あの時代を知る僕のような人間は、そういう音楽のあり方に対する憧憬みたいなものが、どうしても捨てきれないんだよな。僕が目覚めた頃の音楽は、作り手が本気で本物で、見た目にも最高のこだわりを持った人たちが多かった。優れたアーティストには、この2つの要素が、つねに備わっているんだよ。僕自身もそうだったと思いたい。曲を思い出すと同時に、そのアーティストの主張、服装、髪形までもが思い出される。それくらい、社会的にインパクトが大きかったのが当時の音楽だ。そういうのに共感しまくってきた僕だから、自分のやることにも一貫した主張はあるべきだと思うし、Tシャツのデザインひとつとってもパンクっぽさが滲み出てくる。写真の撮られ方でもそう。やっぱり根っこは70年代なんだよ。僕のイメージは一般的には80年代と結びついていることが多いと思うが、それは僕がもっとも成功していたのがその時代だったからであって、80年代に活躍していたアーティストの多くは70年代の子供だったわけだからね」

photo: ©boygeorge
新作はポジティヴなレコードで
これが今の自分なんだ
――『ディス・イズ・ホワット・アイ・ドゥ』はそうしたあなたの原点を振り返ろうとしつつも、成熟したアルバムですよね。
「あぁ、そうだね。成長、というもので満ちあふれているアルバムであることは間違いない(笑)」
――そして、愛に満ちあふれたアルバムですね。
「僕としては、とてもポジティヴなレコードだと感じているよ。惨めさや、あまりメランコリックなことを曲にしたい気分ではなかった、ということだと思う(笑)。いや、それを意識した、という意味ではなく、あくまでその時の自分自身が表われている、ということ。曲を書く……あるいはアルバムを作る時はいつもそうだけど、自分の気持ちに正直に、その時の思いを尊重することが大事だ。過去には……、僕もそうだったけれども若さとはドラマティックなもので、何かにつけて思い切り激情に走ってしまいがちだ(笑)。それが年齢とともに、少しは冷静に我が身を振り返るということができるようになる。ただ、基本的に僕は、異常に楽観的な人間だったような気はしているよ、昔から。あははは」
――そうですね。それがカルチャー・クラブ時代にたくさんの若い人たちに勇気と希望を与えてくれました。そして、今回はいろんな世代に元気をくれるアルバムになりましたね。
「人間、生きていく中でもっとも難しいことのひとつは物の見方を変えることだと思う。物に対しても、人に対しても、状況に対しても、自分で思い込みを変えることさえできれば、何だって可能になる。それが大きな変化をもたらす。そういった精神的な成長をようやく遂げることができたと実感できるようになった。具体的には、自分にとって何が大切で何は大切じゃないのか、大切にすべきものは何なのか……といったことを見きわめられるようになった。そんな、ここ何年かの自分がこのレコードに集約されている。感情をまきちらした結果としての浄化がここにある、というような(笑)」
――そして、ついにカルチャー・クラブのアルバムも作れそうな気持ちになってきたそうですね。
「今、カルチャークラブでも曲を書いているところなんだ、みんなで。年末か、あるいは来年になると思うけど、何か形にできればな、ということで……今ね、すごく楽しめているんだよ、じつは、ふふふ。ひさしぶりなんだけどね。やっぱりマジックを感じる。すっごく楽しい」
――それはよかった。カルチャー・クラブが始動すれば、来日はきっとあると思いますが、今回のアルバムでも来てほしいです。
「UKではクリスマス前にツアーをやって、10本だったかショウをやったんだが、ロンドンの会場には日本の人が大勢いたよ(笑)。ハンパじゃなく大勢いて、大騒ぎしていた。あははは。あのショウを日本でやれたら最高だな。UKは小さな会場だったから、その分すごく熱気があった。それに、今の僕らがやっている音楽をちゃんと聴きたいという気持ちのある人が集まってくれていたようで、とてもいい経験ができたよ。今のバンドで、日本とヨーロッパとアメリカを回りたいな……というのが希望だけれども」
――いやいや、絶対来てください。みんな待ってます。
取材・文 久保憲司(CDJournal 2014年4月号より転載)