2016/5/31掲載
■31年ぶりの2作目に続くアルバムはあっという間の2年で完成
1980年代に青春期を過ごし、リアルタイムで出会った『ノース・マリン・ドライブ』(83年)から受けた感動を心に深く刻み込んだ世代のリスナーにとってこのアルバムは、青春の墓碑のような意味合いを持った作品だ。おそらくベン・ワット本人にとっても。このことを裏付けるかのように、その後に活動が始まったエヴリシング・バット・ザ・ガールにおけるベンは、トレイシー・ソーンの座付き作者のような立場に回り、シンガー・ソングライターとしての自己をほぼ封印した。そして90年代に入ると、彼の関心はクラブDJやエレクトロニック・ミュージックに向けられ、なおさら『ノース・マリン・ドライブ』の世界から遠ざかった。それだけに、一昨年の夏にリリースされた31年ぶりとなるソロ・アルバム『ヘンドラ』を、僕は万感の思いで手にした。新作『フィーヴァー・ドリーム』は、その前作以上にベンの歌声がより心に深く染み込んでくるアルバムだ
青春時代を懐かしみノスタルジーに浸るつもりはない
――前回の単独来日公演(2014年11月28日)の時、あなたはステージで『ノース・マリン・ドライブ』は“songs of innocence”、『ヘンドラ』は“songs of experience”だと語っていました。『フィーヴァー・ドリーム』も、“経験”が深く刻み込まれた一枚と捉えていいと思いますが、あなた自身がこうした認識を抱くようになったきっかけを教えてください。
■ベン・ワット「あの時の発言はウィリアム・ブレイクの詩集『Songs of Innocence and of Experience』に由来するものだけど、このタイトルは僕の2枚のアルバムにあてはまると思った。ソングライターにとって何より重要なのは、自分自身に忠実な曲を書くということだと僕は思っている。『ノース・マリン・ドライブ』は19歳、『ヘンドラ』は52歳の時に作ったアルバムだけど、それぞれの時点における自分が見聞きしたことや感じたことを基にした曲ばかりで、その意味では、どちらにも等身大の僕が表現されている。ポップ・ミュージックというのは、おおむね“いつまでも若く”という価値観に基づいているけれど、僕の音楽は違う。また、人間は50代にもなると、青春時代を懐かしみ、ノスタルジーに浸りがちだけど、僕は過去に生きるつもりはさらさらない」
――人生経験の蓄積は、ソングライターにとって大きな財産だと思いますか。
■ベン・ワット「そう、それはすごく重要なポイントだ。当然のことながら、これまでの僕の人生にはさまざまな重大事が起こった。僕はここ数年の間に両親と姉を相次いで失った。だが、その一方で、僕の子供たちはすくすく育っていて、双子の娘は18歳、息子は15歳になる。また、僕とトレイシーは知り合ってから、今年で35年になる。この間には浮き沈みがあったけど、現在も2人は強い絆で結び付いている。こうした身の回りの出来事や人間関係などの経験の積み重ねのおかげで、曲を作ることができていると思う。と同時に現在の僕は、青春時代と再びコネクトしているような気がしている。僕の心の中にはイノセントな青年がいて、自分を本気でさらけ出せば、人と繋がることができるし、何かを変えることもできると思っている。僕はもう19歳の時と同じようには歌えないかもしれないけど、あの頃と同じように自分の心の底から湧き出たものを曲にしようと心がけていて、その点でも変わっていないと思う」
――『フィーヴァー・ドリーム』には、「Women's Company」という曲があります。この曲に描かれている家族には、あなたが子供だった頃の家族がある程度投影されているのでしょうか。
■ベン・ワット「これは、とある友人が話してくれたことに基づいて作った曲なんだ。歌詞に書いてあるように、その友人の父親は事業に成功したんだけど、後に事業の権利を他人に売ってしまったせいで、一家は貧乏になった。以来、彼の父親は罪悪感を抱き続けていたようで、家では家族とほとんど会話することがなかった。だから友人は父親の代わりに母と姉、叔母を話し相手として育ったという話からアイディアを得て、この曲を作った。ちなみに僕の父親は、男らしい人だったけど、自分の価値観を無理やり押しつけることはしなかった。“Suffer fools gladly”という聖書に基づく英語の言い回しがあるけれど、父はまさに心が広くて、どんなに愚かな意見にもちゃんと耳を傾けてくれた」
自分の中で大きな位置を占める英国のジャズ・フォーク
――あなた自身は、どんな父親ですか?
■ベン・ワット「良き父親であろうとつねに努力している(笑)。男というのは、家族の中で孤立しがちだと思うんだけど、その点、トレイシーは母親と妻の役割のバランスを上手に取っていて、僕と子供たちの両方と心を通わせている。本当に尊敬に値するね。対して、僕はというと、ふと気がついたら、一人の世界に閉じこもっている。子供たちはもう10代だから、つねにからかわれているよ。“お父さんったら、今日は珍しく機嫌が良いわね、批評で褒められたの?”っていうふうに(笑)。ただ、僕たち家族は毎晩食事を一緒に取っているし、会話が絶えることもないので、父親としては恵まれていると思う」
――エヴリシング・バット・ザ・ガールの『アンプリファイド・ハート』には、ニック・ドレイクやジョン・マーティンと共演したことがある元ペンタングルのダニー・トンプソンが参加しています。そして新作には、ニール・カウリー・トリオのジャズ・ベーシストであるレックス・ホランが参加しています。この点からしても、あなたは英国のジャズ・フォークの系譜に連なるシンガー・ソングライターだとあらためて思いますが、自分自身ではどの程度意識していますか。
■ベン・ワット「もちろん、英国のジャズ・フォークは、僕の中で大きな位置を占めている。ジョン・マーティンの音楽を初めて聴いたのは、16歳か17歳の頃。彼がアコースティック・ギターにピックアップを付けて、ディレイを効果的に利用しつつ、スラップ奏法で演奏している光景をテレビで観たんだけど、自分も彼のようにギターを弾きたいと思った。実際、僕のギター・プレイは、彼の影響が大きい。英国のジャズ・フォークの伝統は、現在僕が一緒に活動しているバーナード・バトラーも受け継いでいる。彼は、晩年のバート・ヤンシュ(元ペンタングル)とよく共演していたからね。僕は米国のフォーク・ジャズ、たとえば初期のティム・ハーディンやティム・バックリィ、フレッド・ニールも好きだ。あとは最近発見したんだけど、ジム・サリヴァンと、1枚しかレコードを出していないジム・マンのことも気に入っている」
――前作からわずか2年で新作がリリースされたのは、嬉しい驚きでした。この勢いは、今後も続きそうですか。
■ベン・ワット「前回来日した時、会う人ごとに早く次のアルバムを聴きたいと言われて、すごく心を動かされた。自分のための曲作りを再開した当初の頃は、なかなか上手くいかなかった。声が出るかどうかという不安もあった。けれど、過去2年間にツアーをやったおかげで、僕の声は以前より力強くなったし、現在はライヴで歌うことを心から楽しんでいる。だから未来のことは断言できないけれど、これから先もすすんで曲作りをする方向へ自分を仕向けようと思っている」
取材・文 渡辺 亨 CDジャーナル 2016年6月号掲載
■Hostess Club Presents Ben Watt Band feat. Bernard Butler
・2016年9月13日(火)、14日(水)
東京 渋谷 WWW X
開場 18:30 / 開演 19:30
前売 7,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: クリエイティブマン 03-3499-6669
・2016年9月16日(金)
大阪 心斎橋 SOMA
開場 18:30 / 開演 19:30
前売 7,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: キョードーインフォメーション 0570-200-8888
・2016年9月16日(金)
京都 メトロ
開場 17:00 / 開演 18:00
前売 7,000円(税込 / 別途ドリンク代)
※お問い合わせ: 京都メトロ 075-752-2787
※いずれの公演も未就学児(6歳未満)のご入場をお断りさせていただきます。












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