三遊郭中編文学集2

三遊郭中編文学集 2 [電子書籍版]
三遊郭

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商品基本情報

商品説明

「雪蟲舞う頃に」「青空の中の太陽の無い罪は」の2作品蒐集。著者の処女作を含む作品集。「青空の中の…」はヴェルレーヌ詩集からのイメージングによる、中作品。まだまだ荒削りな作品群であろうか? だが一読の価値はあるのではないであろうか。


★立ち読み 雪蟲舞う頃に


雪蟲舞う頃に


第一部


第一章


ある文豪達に対する応えとして。


山の麓の潮の香りのする屋根裏部屋。十五畳はあるであろうか。二階建レンガ造りの穏襤褸アパート。この1LDKには洒落た出窓が東西に一対、一方は海に、そしてもう一方は枯れた木々に面してある。僕が住み、そして“俺”と“一羽の僕”が住んでいたこの部屋。


この私小説はここで展開する。


* *


遠くなってしまったような、あの日。二年前。


黄昏時の春の陽光が、出窓を支点にして部屋の空気を紅色に染め分けていた、あの時、僕はこの紅色の正体が何であるのかに気付き、多少気分を害していた。僕はそれを追い出す為に、然りげなさを装うという態とらしさを彼女の気配に対し演じてみせながら、西の出窓を少しずつ開けていったのだった。


窓を開けると、そこは一枚の薄っぺらな影絵のようになっていた。それはきっと黄昏時の光のせいだったのであろう…遠くに浮かぶ青函連絡船や、間近に見える洋式の古い墓石達、


そしてそれらを見て回る観光客にいたる全ての物は、水平線に沈みかけたセピア色の光を背に立体感を無くし、動く影絵のようになっていたのだった。


“少し観念的に過ぎるな…これは。”と、その時は思った。そして更に…。


“観念が実在してしまったような男、あるいは女でもいいーー自らがそうであると認識した時に見せるあの恥じらい、謙虚さ、そして悲しみーーそんな情緒性が、この情景にあってもいいのじゃないのかな…。”等と相手が単に情景であるという事を良い事にして、気障な事を思ったりもした。


“他人に対してはこんな事、言えないな。”そう思いつつも、この観念的な美しさを持つ情景にいつしか優しく包み込まれ、現実から遠く引き離されてしまっている自分自身に気付き、自らのこの批評に苦笑した。プラモデルのシンナーを吸っているみたいなものだな。“まあ…どうだっていいか。”いつもの使い古した、そして多少飽き飽きしたこの答えが、その時、僕の身体の起伏に添って後方へ流れていった涼しい潮風と共に、彼女の方へ意識を向かわせていったのだった。


後を振り返り、話し掛けた。


「いい所ですね」


其処には二十三・四の若い、子供をおぶった女性ーー管理人さんーーが立っていた。


「ええ」 どこか寂しげな、それでいて精一杯だったのであろうか、そんな感じのする微笑みを浮かべ、応えてくれた。“可愛い女性だな。”と思った。しかしその思いは、彼女の小さな背中の中で寝息を立てている子供の姿を見た一瞬に、僕を赤面させた。気を取り直し…。


「これで…あっ。いえ、その…この部屋で、本当に一万六千円ですか」しどろもどろになりつつ、可愛い管理人さんに尋ねた。


「ハイ、それはもう」


素直な微笑みだった。


「学校からは大分距離があるけれど、末広町電停から電車に乗れば、後は真直ぐだし…」


俯きながら話していた。何故俯きながらなのか…分からなかった。


それから何分か、二人の間に沈黙ができてしまった。僕はそれを誤魔化す為の何気なさを装い、部屋の中を眺め、そこに取り残されたように風化してしまっていた、古ぼけた机に目を止めた。風化…と呼ぶには場違いな彼女の雰囲気と古ぼけた机…意識は勿論彼女の視線の方へと向かい、心はそれを破るべく不安と衝動に駆られていたのだった。


「この部屋は、大分長い間使われていなかったのでしょ」


口に出してしまった後で、“しまった”と思ったが、もうその時には遅かった。彼女は照れた瞳を僕に向け、それに気付いた時には既に話し出していたのだった。「ごめんなさいね。やっぱり、少し埃っぽかったかしら。何せこの部屋、三年以上も締め切ったままにしておいたものだから…あの…今日は他にお泊りなのでしょ」「えっ。え…。湯の川の民宿に」


「じゃあ、良かった。今度来る時には、連絡を下さいね。その時までには部屋も綺麗にしておきますから」


★立ち読み 青空の中の太陽のない罪は


序 文


ヴェルレーヌ詩集に捧ぐ


生活の苦しみを力で捻伏せようとするのは間違


っているのです。それがアマンなのです。何故


アマンなのでしょう。


生活は実行家の癖面だからです。


極々言われてる事ですね。


このエビゴーネン。


「太陽が眩しかったから」娘はそれを呟いた。


第一部


第一章


秋風のなかに思う。


私は彼女を観察しない。そしてその早紀は、私を愛してる。そして父としてとに。愛は早紀を風に、野に、そして太陽に、相察(造語)をしない内に見つめられている。その安全に太陽は、霧にあの子を、奇を、あの子の恥部をーー愛と勘違いさせていた。


あの日の赤飯はこの娘にとって、好きではなかった。


南仏のオリーブが娘を乾かした。あの次ぎの日にーー「向日葵を観ました」と、彼女は乾いた風を訪ねていった。そして荒れた道の埃をーーその太陽の中の大陸の流れが、娘の肌を綺綺麗にするわけがない。そしてそれは川の鋼質が多すぎるのだから。


卵を持った手で、この娘の髪の毛に手を入れた。「何で…。父子なのに」、この娘の質問に…当然を感じた。


'66年を略いていった。音学の様に生きていた。ホテル・カリフォルニア。


娘に対して…「貴女の手足が長いのは日本人からかな…それともここの所為」潮騒に乾かした洗濯物を取りながら言った。空は青く、故郷の雪国をーー異国をーー雲を、思った。


「何故…」自分に自失した。


* *


地球儀を娘に買って与えた。そして私はそれを指で差して言った。「アルジェに行こう。太陽がまだ、高い所にある」彼女の顔を、太陽の光を手で遮りながら、光に指差した。「お父さん。煙草吸うの?」初めて見せた姿だった。

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